遺産に無償で居住している相続人がいる場合の相続に関するQ&A
遺産に無償で居住している相続人がいる場合には、退去を求めることはできますか?
一般的には、被相続人から遺産に居住することを認められていた相続人がいる場合は、その相続人は、遺産分割が成立するまでの間は、無償で、その遺産に居住し続けることができると考えられています。
過去の裁判例にも、被相続人の許諾を得て被相続人と同居していた相続人については、遺産分割が成立するまでの間は、無償で遺産を使用し続けることができると判断したものがあります。
また、令和2年に施行された改正相続法により、配偶者短期居住権が認められ、配偶者については、遺産分割が成立するまでの間、無償で遺産に居住し続けることができることが法的に定められることとなりました。
以上から、遺産に無償で居住している相続人については、その相続人が被相続人から居住することを認められていた場合や、その相続人が被相続人の配偶者である場合には、基本的には、退去を求めることはできないと考えられます。
遺産に無償で居住している相続人は、いつまで居住し続けることができるのでしょうか?
過去の裁判例も、配偶者の短期居住権の制度も、遺産分割が成立するまでの間は、無償で居住し続けることができるとしています。
このため、遺産分割が成立するに至り、他の相続人が居住している不動産を取得した場合には、その相続人が退去を求めてきた場合は、無償で居住している相続人が退去せざるを得なくなる可能性があります。
ただし、被相続人の配偶者については、令和2年に施行された改正相続法により、配偶者居住権を主張することができるようになりました。
配偶者居住権の主張が認められた場合には、配偶者は、遺産について、基本的には終身の居住権を取得することとなります。
このような主張を行い、配偶者居住権を設定するとの遺産分割協議が成立したり、配偶者居住権を設定するとの家庭裁判所の判断がなされた場合には、配偶者は、遺産分割が成立した後も、遺産に無償で居住し続けることができることとなります。
遺産に無償で居住している相続人に対し、賃料分を請求することはできないのでしょうか?
遺産に無償で居住している相続人は、基本的には、法律上、無償使用する権利をもっていると考えられますので、その相続人に対して賃料分を請求することはできないと考えられます。
また、遺産に無償で居住している相続人が、賃料の支払を免れていることが、その相続人の特別受益に該当するとの主張がなされることもあります。
この点については、様々な見解がありますが、結論としては、このような主張により、遺産に無償で居住している相続人の具体的相続分を減じることはできないと考えられています。
無償で居住している遺産の経費については、誰が負担すべきなのでしょうか?
無償で居住している遺産の経費を誰が負担すべきかについては、様々な考え方があります。
この点については、使用貸借の場合と同様に考え、通常の必要費については無償で居住している相続人が負担すべきであるとするものもあります。
例えば、固定資産税については、通常の必要費に該当し、無償で居住している相続人が負担すべきであることとなります。
他方、遺産に関する費用については、遺産分割が成立するまでの間は、法定相続分に基づいて分担すべきとする考え方もあります。
こうした複数の考え方が存在することを踏まえ、相続人間の意見調整を図る必要があるところです。