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遺産分割協議の内容を守らない人がいる場合はどうすれば良いですか?

  • 文責:代表 弁護士 西尾有司
  • 最終更新日:2024年6月18日

1 遺産分割協議の内容が守られない場合

遺産分割協議の内容が守られない場合の代表例としては、以下のようなものが考えられます。

① 自分が相続財産を取得することとなったが、他の相続人が名義変更に協力しない

遺産分割協議が成立し、自分が相続財産を取得することとなった場合は、払戻や名義変更の手続を行うことになると思います。

払戻や名義変更の手続を行うに当たっては、法務局や銀行に遺産分割協議書を提出し、相続手続を進めることを依頼することとなります。

通常ですと、相続人全員の実印の押印があり、相続人全員の印鑑証明書が添付された遺産分割協議書を利用すれば、ご自身が単独で払戻や名義変更の手続を行うことができます。

しかし、遺産分割協議書に押印されたのが実印ではなかった、実印が押印されているものの印影が鮮明ではなかった、印鑑証明書の添付が欠けていた、印鑑証明書が古いものだった等の理由により、遺産分割協議書を提出したものの、払戻や名義変更の手続を行うことができないといった事態が生じることがあります。

このような場合には、他の相続人に対し、払戻や名義変更の手続への協力を求める必要が生じてきます。

しかし、手続への協力を求めたものの、他の相続人が手続に協力してくれないといったことが、往々にしてあります。

このように、他の相続人が名義変更に協力しない場合が、遺産分割協議の内容が守られない代表例の1つです。

② 他の相続人が相続財産を取得することとなったが、他の相続人が名義変更をしようとしない

遺産分割協議が成立し、他の相続人が相続財産を取得することとなったにも関わらず、他の相続人が名義変更等の手続を進めようとしないといった事態が生じることがあります。

名義変更がされていないのが預貯金や有価証券である場合でしたら、他の相続人が預貯金や有価証券を受け取ることができないだけですので、ご自身への不利益が生じることは基本的にはないでしょう。

ところが、名義変更がされていないのが不動産である場合でしたら、ご自身への不利益が生じるおそれがあります。

不動産については、継続的に固定資産税が課税されますが、固定資産税については、不動産の名義人が納付の義務を負うこととなっています。

そして、不動産の名義が被相続人のままになっていますと、固定資産税は、相続人全員が納付の義務を負うものと定められています。

このため、他の相続人が不動産の名義変更を行わない場合には、ご自身に対し、固定資産税の納付義務が課されるおそれが生じてくることとなります。

このような場合に、遺産分割が成立しているとの主張を行ったとしても、不動産の名義が被相続人のままになっている以上、法律上、固定資産税の納付の義務を免れる術はないこととなってしまいます。

このように、他の相続人が遺産分割協議の内容を実現しないことによっても、ご自身に不利益が生じてくることがあります。

③ 遺産分割協議書に明記した約束事が守られない

相続財産の名義変更以外にも、遺産分割協議書では、色々な取り決めがなされることがあります。

たとえば、相続人の1人が相続財産のすべてを引き継ぐ代わりに、被相続人が負っていた債務については、その相続人が今後は返済を行うものとし、他の相続人は債務を負担しないものとするとの約束がなされることがあります。

他にも、相続人の1人が相続財産のすべてを引き継ぐ代わりに、今後、その相続人が被相続人の残された配偶者の扶養、療養看護の責任を負うとの約束がなされることがあります。

遺産分割協議書において、このような約束がなされたにも関わらず、その後、その約束が守られないといったことがあり得ます。

2 対処法

①、②、③のそれぞれについて、別々の対処法が存在します。

①への対処法

ご自身が取得した相続財産の払戻や名義変更を行うためには、他の相続人を相手取って、訴訟を提起することが、最終的な解決手段になります。

具体的には、遺産分割協議書真正確認訴訟を提起したり、所有権移転登記手続請求訴訟や預貯金債権の帰属の確認請求訴訟を提起したりすることが考えられます。

とはいえ、最初から訴訟での解決を図ることに抵抗感がある場合もあるかと思います。

そのような場合には、最終的には訴訟で解決する選択肢があることを明言しつつも、相互に円満な解決を図るため、訴訟前の交渉での解決を提案するといった方法が用いられることになるかと思います。

②への対処法

この場合も、不動産を他の相続人の名義に変更するためには、他の相続人を相手取って、訴訟を提起することが、最終的な解決手段になります。

具体的には、登記引取請求訴訟を提起することが考えられます。

この場合も、訴訟という選択肢があることを明記しつつも、訴訟前の交渉での解決を図ることも多いかと思います。

③への対処法

この場合も、合意内容の履行を求めて、他の相続人を相手取って、訴訟を提起することが考えられます。

もっとも、悩ましいのは、他の相続人が債務を返済することを約束したにも関わらず、他の相続人が債務の返済を行わない場合です。

この場合、債権者は、法的には、共同相続人全員に対し、相続分の範囲内で請求を行うことができます。

遺産分割協議で他の相続人が債務を返済するとの合意をしていたとしても、債権者に対してはこのような合意の存在を主張することはできず、相続人全員は、債権者との関係では、責任を負い続けることとなります。

このため、債権者からの請求に対しては別途対応を行いつつ、他の相続人に対して合意の履行を請求する必要があることとなり、綱渡りのような状況に追い込まれてしまうこともあります。

この点を踏まえると、合意内容を守らない相続人に対して、もっと強力な主張を行うことができないのかと考えられる方も多いです。

よく質問に上がるのは、「他の相続人が合意内容を守られなかったことを理由として、遺産分割協議を債務不履行解除する(なかったこととする)こととし、他の相続人が取得した財産の返還を求めることはできないのか」ということです。

しかし、遺産分割協議については、債務不履行解除することはできないというのが、確立した判例となっています。

遺産分割協議の債務不履行解除が認められると、当事者とならなかった相続人が巻き込まれたり、財産の帰属が覆ったりするため、法的安定性が害されるからというのが、その理由です。

このため、約束を守らない相続人に対しては、あくまでも、約束の履行を求めることができるにとどまるということとなります。

このように、他の相続人が遺産分割協議を守らなかった場合には、別途債権者からの請求に対応する必要があったり、他の相続人に対して請求できる内容に限界があったりすることについては、注意する必要があります。

逆に言えば、他の相続人に約束をしてもらう内容の遺産分割協議書への署名を求められた場合には、以上のような問題が生じる可能性があることを考慮して、遺産分割協議書に署名するかどうかを決定する必要があることとなります。

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