相続登記で登記と住民票の住所がつながらない場合
1 相続登記の前提条件
遺産分割協議が成立すると、亡くなった人名義の不動産を相続人名義に変更する登記を行う必要が生じます。
こうした相続登記を行うにあたっては、注意しなければならない点があります。
相続登記を行う際には、亡くなった人と、登記上の所有者とが同一人物であることを証明する資料を提出する必要があります。
登記上の所有者とは別の人物が亡くなったのに、登記上の所有者を誤って変更するようなことは、あってはならないからです。
亡くなった人の住所、氏名は、公的には、亡くなった人の住民票で確認することになります。
以上から、亡くなった人の住民票上の住所、氏名と、登記上の住所、氏名が一致することが相続登記を行う前提条件となります。
2 亡くなった人の登記上の住所と住民票上の住所がつながらない場合の問題点
ところで、現実には、亡くなった人の登記上の住所と、住民票上の住所が一致しないということが起こり得ます。
例えば、亡くなった人の最後の住所が四日市であったのに、登記簿の住所を確認すると、全然違う住所が記載されているといったことは、しばしばあります。
住所を移転すると、たいていの場合、転出届、転入届がなされ、住民票上の住所を変更する手続きがなされます。
このとき、登記上の住所について、自動的に変更がなされるわけではありません。
登記上の住所を変更するためには、別途、法務局で住所変更登記の申請を行う必要があります。
しかし、住所変更登記の申請を失念してしまい、登記上の住所が過去の住所のままになっているということが起こり得ます。
こうした状態のまま、相続が発生してしまうと、亡くなった人の登記上の住所と住民票上の住所が一致しないという事態が起きてしまいます。
このように、亡くなった人の登記上の住所と住民票上の住所が一致しないと、亡くなった人と登記上の所有者とが同一人物であるかどうかが証明できず、相続登記ができないという事態が起こり得ることとなるのです。
このような状態が起きた場合の対応を以下でご説明いたします。
3 住民票の記載を利用する
住民票には、亡くなった当時の住所とともに、その前住所が記載されています。
このため、前回の登記がなされてから、住所変更が一度しかなされていない場合には、住民票の前住所の記載を利用し、住民票の前住所と登記上の住所が一致することを明らかにすることができます。
もっとも、この方法を用いることができるのは、前回の登記がなされてから、一度しか住所変更がなされていない場合に限られます。
亡くなった人が複数回住所変更している場合には、このような手段は利用できないこととなります。
この場合、過去の住所について記録している、住民票の除票を取得することも考えられます。
しかし、住民票の除票は、2019年6月まで、保管期間が5年と短期間に設定されていましたので、住民票の除票では、過去の住所を証明できないことが多々あります。
4 戸籍の附票を利用する
⑴ 本籍地が変わっていない場合
戸籍の附票には、亡くなった時点の本籍地に本籍が置かれて以降、住民票上の住所がどのように変更されたかがすべて記録されています。
このため、戸籍の附票を利用すれば、亡くなった時点の本籍地に本籍が置かれて以降の住所を、すべて証明することができることとなります。
前回の登記が行われたのが、亡くなった時点の本籍地に本籍が置かれて以降である場合には、亡くなった人の住民票に代えて、戸籍の附票を提出することにより、亡くなった人の過去の住所と登記上の住所が一致することを証明することができます。
⑵ 本籍地が変わっている場合
前回の登記が行われたのが、亡くなった時点の本籍地に本籍が置かれる前である場合は、亡くなった人の前の本籍地について、除籍の附票が残されている場合があります。
したがって、除籍の附票を提出することにより、過去の住所と登記上の住所が一致することを証明することができる可能性があります。
もっとも、除籍の附票についても、多くの自治体は、2019年6月まで、保管期間を5年に設定していましたので、現実には、除籍の附票を取得できないことが多々ありました。
このため、亡くなった人の過去の住所と登記上の住所が一致することを証明するため、他の代替手段を検討すべき場合が生じてしまうこととなります。