遺言の検認手続の流れと必要書類
1 遺言の検認手続
自筆で作成された遺言(自筆証書遺言)については、法務局で保管されていたもの以外は、家庭裁判所で記録化する手続をとることとなっています。
この手続を検認手続と言います。
遺言の検認手続を行わなければ、基本的には、自筆の遺言を用いて、相続の手続を行うことはできないこととなっています。
検認の手続は、以下の流れで進められます。
2 必要書類の収集
最初に、必要書類の収集を行います。
家庭裁判所のホームページ等で案内されている必要書類は、以下のとおりです。
① 検認の申立書
② 被相続人の出生から死亡までの戸籍
③ 相続人全員の現在戸籍
④ 800円の収入印紙
⑤ 郵券(郵便切手)
①の検認申立書は、家庭裁判所で書式を入手し、必要事項を記載して作成します。
書式については、家庭裁判所のホームページで入手できますし、家庭裁判所の窓口で入手することもできます。
参考リンク:裁判所・遺言書の検認
記載事項は、書式を確認すれば一通り把握することができます。
申立人の氏名、連絡先、被相続人の氏名、本籍、住所、生年月日、死亡年月日、相続人の氏名、住所等を記載します。
②と③の戸籍は、相続人が誰であるかを特定するために提出する必要があります。
検認手続では、家庭裁判所が相続人全員に対して検認期日の通知を行うため、相続人が誰であるかを特定する必要があることとなっています。
相続人が子のみである場合は、②と③の戸籍で相続人を特定することができます。
相続人が子のみではない場合は、さらに追加で戸籍を取得する必要が生じてきます。
⑤の郵券は、いくらのものを提出するかについて、家庭裁判所で個別に定めがなされていますので、事前に家庭裁判所に確認する必要があります。
実際には、①から⑤以外に、相続人全員の戸籍の附票か住民票を取得する必要があります。
検認手続では、家庭裁判所から相続人全員に対して検認期日の通知がなされることとなりますが、各相続人の住所が分からなければ、検認期日の通知を行うことはできません。
このため、検認手続に先立ち、各相続人の住所が記載された公的な書類、つまり、戸籍の附票や住民票を取得する必要があることとなっています。
これらで調査した各相続人の住所を検認申立書に記載し、検認の手続を進めることとなります。
なお、受遺者が存在する場合には、受遺者に対しても検認期日の通知がなされます。
遺言が封筒に入っていない等の事情から、あらかじめ受遺者が存在することが判明している場合には、受遺者の氏名、住所を記載する必要があるため、受遺者の住所を確認する必要があり、受遺者の戸籍の附票や住民票を取得すべき場合があります。
3 検認申立書、添付書類の提出、補正
必要書類が準備できましたら、検認申立書を提出します。
提出先の裁判所は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
提出は、家庭裁判所の窓口で直接提出することもできますし、家庭裁判所に郵送する方法により行うこともできます。
この時、先述の①から⑤の書類も、添付書類として、合わせて提出します。
相続人の戸籍の附票や住民票については、検認申立書に住所が記載されている場合は提出不要とされますが、念のため提出を求められることもあります。
申立については、遺言を保管している人や、遺言を発見した相続人が行うことができます。
弁護士に検認申立の代理を依頼することもできます。
検認申立書と添付書類の提出が完了すると、家庭裁判所が書類の審査を行います。
書類に修正点や補充がある場合は、家庭裁判所から申立人に連絡がなされ、補正を求められます。
4 検認期日の指定、通知
申立人との間で検認期日の日程調整が行われます。
検認期日は、家庭裁判所で自筆証書遺言の内容を確認し、家庭裁判所で記録化する手続のことを言います。
検認期日には、申立人が出席する必要があるため、申立人との間で日程調整がなされることとなります。
日程が決まりましたら、何月何日の何時からという形で、検認期日の指定がなされます。
検認期日が指定されると、家庭裁判所は、相続人とあらかじめ判明している受遺者に対し、検認期日の通知を行います。
各相続人と受遺者は、検認期日に出席する権利を持っています。
このため、検認期日が確定すると、各相続人と受遺者が検認期日に出席できるよう、検認期日の通知がなされることとなります。
検認期日の通知は、書面の郵送によりなされます。
検認期日の当日までに、各相続人や受遺者は、検認期日に出席するかどうかを決めることとなります。
各相続人や受遺者は、検認期日に出席する義務を負っているわけではないですので、検認期日への出席を希望しない場合は、欠席することを選択することもできます。
なお、出席する場合も、欠席する場合も、家庭裁判所に事前に連絡する必要はありません。
5 検認期日
検認期日は、家庭裁判所の一室で行われます。
申立人は、必ず、遺言を持参する必要があります。
検認期日には、家庭裁判所側からは、裁判官、書記官が在席します。
また、申立人、出席した相続人、受遺者も在席します。
当日の手続としては、まず、家庭裁判所が申立人から自筆証書遺言を預かります。
裁判官は、申立人に対し、遺言を発見し、保管していた経緯等について質問し、これを記録化します。
また、裁判官は、遺言の外観を確認し、これを検認調書において記録に残します。
遺言が封緘されている場合は、封筒の開封が行われます。
開封については、裁判官が行います。
次に、裁判官は、申立人、相続人、受遺者に遺言を回覧し、遺言を確認してもらいます。
そして、申立人、相続人、受遺者に、順次、遺言の筆跡が誰の筆跡であると思われるか、印影が誰の印鑑のものであると思われるかを質問します。
申立人、相続人、受遺者の回答内容についても、検認調書において記録に残します。
これらの手続が完了すると、検認期日が終了します。
その後、家庭裁判所は、遺言のコピーをとり、これを検認調書の一部として記録に残します。
検認調書の作成が完了すると、検認済証明書付の遺言が申立人に返還されます。
以上のような手続により、家庭裁判所は、遺言に関する情報や遺言のコピーを、検認調書の形式で、家庭裁判所の記録として、保管することとなります。
後日、相続人や受遺者が、遺言の内容等を確認したいと考えた場合は、家庭裁判所に申請すれば、検認調書の謄本を発行してもらうことができ、遺言に関する情報や遺言のコピーを入手することができます。
検認期日の当日は欠席した相続人等も、検認調書の謄本を入手することにより、遺言の内容を確認することができます。
検認期日で話した内容は、検認調書に記録化され、後で他の相続人や受遺者が内容を確認する可能性がありますので、どのようなことを話すかについては、慎重に決める必要があると言えます。
検認期日では、家庭裁判所の1室に相続人や受遺者が集まる可能性があります。
相続人や受遺者の間で意見対立が激しい場合は、検認期日で集まった際、互いに口論になったり、嫌がらせをされたりするのではないかと懸念される方もいらっしゃいます。
ただ、現実には、裁判官や書記官の在席のもと、粛々と手続が行われますので、相続人や受遺者の間で揉め事が発生するような事態になることは、稀ではあります。
申立人については、検認期日に出席する必要があることとなっていますが、相続人や受遺者と顔を合わせることとなる可能性がある等の事情から、代理人である弁護士に代わりに検認期日に出席してもらい、ご自身は欠席とすることを希望されることがあります。
家庭裁判所によっては、代理人である弁護士のみが出席することを認めてくれることもありますが、申立人本人の出席を求めることもあります。
とはいえ、裁判官から、遺言の筆跡や押印等について質問がなされることがあり、こうした質問については申立人本人しか回答することができないことが多いでしょうから、申立人本人も出席した方が望ましいとは考えられます。
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