相続税を申告・納付する義務がある人
1 どのような人が申告・納付する義務を負うか
まず、どのような人が相続税を申告・納付する義務を負うかについて、説明したいと思います。
⑴ 相続人となり、実際に財産を相続した人
まず、相続人となり、実際に財産を相続した人が、相続税を納付する義務を負うこととなります。
相続人となるかどうかは、民法のルールで決まることとなります。
具体的には、以下のとおりです。
➀ 配偶者
配偶者は必ず相続人となります。
② 第一順位の相続人
子がいる場合は、子が第一順位の相続人となります。
被相続人が亡くなった時点で子が亡くなっていたが、さらにその子(被相続人の孫)がいる場合は、その子(被相続人の孫)が第一順位の相続人となります。
③ 第二順位の相続人
第一順位の相続人がいない場合や、第一順位の相続人が全員相続放棄を行った場合は、父母が第二順位の相続人となります。
被相続人が亡くなった時点で父母が亡くなっていたが、さらにその父母(被相続人の祖父母)が存命である場合は、その父母(被相続人の祖父母)が第二順位の相続人となります。
④ 第三順位の相続人
さらに、第二順位の相続人がいない場合や、第二順位の相続人が全員相続放棄を行った場合は、兄弟姉妹が第三順位の相続人となります。
被相続人が亡くなった時点で兄弟姉妹が亡くなっていたが、さらにその子(被相続人の甥姪)が存命である場合は、その子(被相続人の甥姪)が第三順位の相続人となります。
これらの相続人は、被相続人から財産を相続する権利を有することとなります。
これらの相続人が、まず、相続税を申告、納付する義務を負うこととなります。
もっとも、相続人であったとしても、財産を一切相続しなかったときは、相続税を申告、納付する義務は負いません。
たとえば、相続人ではあったものの、相続人全員で遺産分割協議を行い、財産を一切相続しないこととなった場合は、他の理由で納付義務者とならない限りは、相続税を申告、納付しなくても良いこととなります。
⑵ 遺言により財産の遺贈を受けた人
被相続人が遺言を作成しているときは、遺言に基づき、財産が引き継がれることとなります。
遺言を作成したときは、相続人ではない人に対しても、財産を引き継ぐことができます。
このように、遺言により財産の遺贈を受けた場合も、相続税を申告、納付する義務を負うこととなります。
⑶ 死亡保険金の受取人、死亡退職金の受取人
被相続人が生命保険契約を組んでいた場合は、死亡保険金が発生することがあります。
この場合は、被相続人が死亡保険金の受取人に指定していた人や、保険契約の規定により死亡保険金を受け取る権利を有することとされていた人は、死亡保険金を受け取ることができます。
このように、死亡保険金の受取人となっていた人は、相続税を申告、納付する義務を負うこととなります。
被相続人が亡くなった時点で就業していた場合は、死亡退職金が発生することがあります。
この場合は、死亡退職金規程により死亡退職金を受け取る権利を有するとされていた人は、死亡退職金を受け取ることができます。
このように、死亡退職金の受取人となっていた人もまた、相続税を申告、納付する義務を負うこととなります。
⑷ 個人年金保険の受給権者
被相続人が民間の保険会社の個人年金保険に加入していた場合に、遺族がその後の定期金や一時金の受給権者となることがあります。
このような定期金や一時金の受給権者についても、相続税を申告、納付する義務を負うこととなります。
⑸ 信託契約の受益者
被相続人が信託契約を組んでいたときは、被相続人が亡くなったことにより、一定の人に受益権が発生することがあります。
このような信託契約の受益者についても、相続税を申告、納付する義務を負うこととなります。
⑹ 相続時精算課税制度により贈与を受けた人
相続時精算課税制度とは、相続時精算課税選択届出を提出することにより、年110万円を超える贈与について、累計2500万円までは、贈与税が課税されることなく、贈与を行うことができる制度を言います。
さらに累計2500万円を超えて贈与を行ったときは、一律20%の贈与税が課税されることとなります。
このとき、年110万円を超える贈与については、累計2500万円までは贈与税は課税されませんが、さかのぼって相続税の課税対象とされることとなります。
また、累計2500万円を超えてなされた贈与についても、相続税の課税対象とされ、相続税の申告時に納付済みの贈与税と精算がなされることとなります。
この相続時精算課税制度を利用して被相続人から贈与を受けた人についても、相続税を申告、納付する義務を負うこととなります。
2 住所による限定
近年では、国外に居住する人が、被相続人や相続人となる案件が増えてきています。
この場合には、複雑なルールが設けられており、一定の場合にはすべての財産が相続税の課税対象となり、一定の場合には国内にある財産だけが相続税の課税対象となったりします。
このように、国外に居住する人が関係してくる案件では、相続税を申告・納付する義務のある人は、住所によって限定されることとなります。
この点についてのルールの概略を説明すると、以下のとおりとなります。
①被相続人が相続開始日時点で国内に住所を有していた場合、相続人が相続開始日時点で国内に住所を有していた場合の、いずれかに該当する場合は、その相続人は無制限納税義務者になります。
この場合には、国内にある財産も、海外にある財産も、被相続人が有していたものは、すべて、相続税の課税対象になります。
ただし、短期滞在の外国人であるときは、以下の②と同様になります。
②上記①に該当しないときは、⑴被相続人が、相続開始日からさかのぼって10年以内に国内に住所を有していた場合、⑵相続人が、日本国籍であり、相続開始日からさかのぼって10年以内に国内に住所を有していた場合の、いずれかに該当する場合は、その相続人は無制限納税義務者になります。
上記以外は、制限納税義務者となり、国内にある財産だけが相続税の課税対象になります。
以上のルールにより、相続税の納税義務者となったときは、相続税を申告、納付する義務を負うこととなります。
3 財産額による限定
課税対象となる財産の総額が一定額を超えない場合は、相続税が発生しませんので、相続税を申告・納付する義務は負わないこととなります。
このように、課税対象となる財産の総額により、相続税を申告・納付する義務のある人は限定されることとなります。
具体的には、課税対象となる財産の総額が、以下の基礎控除額を超えない場合は、相続税は発生しないこととなります。
3000万円+600万円×法定相続人数
裏返せば、課税対象となる財産の総額が基礎控除額を超えているときは、相続税を申告、納付する義務を負うこととなります。
4 配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例の適用を受けることができる場合
相続税には、本来は課税対象となる財産が非課税となったり、財産の評価額を減少させたりする特例があります。
代表的なものは、配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例です。
配偶者の税額軽減は、配偶者が引き継いだ財産については、法定相続分額又は1億6000万円のいずれか大きい金額までは、相続税を課税しないものとする制度になります。
小規模宅地等の特例は、被相続人の居宅の底地や被相続人が事業用に利用していた土地については、限度面積(居住用土地については330㎡、事業用土地については400㎡)までは、評価額を8割減額することができる制度です。
賃貸用に利用していた土地についても、限度面積(この場合は200㎡)までは、評価額を5割減額することができます。
これらの特例を利用すると、相続財産が課税対象から外れたり、評価額が減額されたりすることにより、相続税が非課税となることがあります。
ただ、このようにして相続税が非課税となる場合については、相続税を納付する必要はありませんが、相続税を申告する必要があることとなります。
相続税が課税されないと考え、申告をしないままにしておくと、後日、特例の利用が認められず、相続税を納付しなければならない可能性があります。
このように、特例を利用する場合については、相続税を納付する義務は負わないものの、申告する義務は負いますので、注意が必要です。